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第２部

解説集

１．物理雑誌パリティについて

我々は、 「温度差のある２つの液体が一体化しようとすると、その液体の内部に『熱キャピラリ ー対流』という対流が発生する。それによって２つの液体の間に空気の対流が発生し、 液体を引き離すのに十分な圧力を発生させている」 というパリティ（Vol．13、No.10、1998-10）の文章に注目した[図６]。

[図６]

２．干渉法による実験の解説

（原理）
干渉法によって液滴下部の形状を突き止め、空気流によって圧力が増大する部分の 有無を確認する。温度差の有無によらず、液滴が空気流によって水面と一体化しないの ならば、液滴下部の形状は［図７］のようになっていると考えられる。そうでなければ、 空気流が原因とは考えられない。

（方法） こまごめピペットを用いて水面に液滴をつくり、それにレーザー光を当て、返って きた光をハーフミラーで反射させる。その反射光をビデオカメラで直接撮影し、液滴が つくる干渉縞を観察する。	［図７］
（装置）【写真１】［図８］ ［図８］	【写真１】

（工夫した点）

ハーフミラーを用いてビデオカメラに撮影した。
• レンズを用いてレーザー光を拡大して見やすくした。
• 光源にはレーザー光を用いた。（波長：6.7× ｍ）

（考察）
【写真２】では、外側ほど干渉縞の間隔が広がっているように見える。しかし、液滴 の半径は２ｍｍ程度と非常に小さいので、我々が観察した干渉縞は、外側ほどレーザー 光の反射角が大きくなって間隔が広がる傾向があることを無視できなかった［図９］。

一方、【写真３】はシャーレの水面上につくられた液滴に上から照射したレーザー光が つくる影のうち、液滴が消滅するときにみられる輝きであって、一体化が液滴下部の中 心で起こると考えた方がよいことを示している。したがって液滴下部が凹面であるとは 考えにくい。しかし液滴を一カ所にとどめておくことができなかったので、鮮明な画像 が得られず、形状を断定することはできなかった。

［図９］

【写真２】

【写真３】

３．一体化するしくみの考察

水の表面張力の大きさをσ〔J／m² 〕、液滴の表面積をS〔m²〕とすると、液滴の表 面を保つエネルギーは、σS〔Ｊ〕と表される。液滴の一部と水面が接触したならば、 その部分は液滴と水面の表面張力によって周囲に引っ張られ、接触面積は広がっていく と同時に内部の水が下にふきだす。これによって、液滴の表面積は減少し、σSも減少 する。このようにして、一体化が進み液滴は消滅するのではないかと考えた［図１０］。

［図１０］

４．静電気力説の検証

（方法）
ビュレットの高さや水面の深さ、水の量などの条件を同じにして、アースをつけた水 面とアースをつけていない水面のそれぞれに水滴を滴下し、できやすさと寿命を比べる。

（装置）【写真４】 （工夫した点）片方だけに電極を入れるのではなく、両者に入れ、片方だけアースにつ なぐことによって、絶縁とアースだけの条件比較ができるようにした。 （結果） できやすさと寿命の違いはみられなかった。 補足（理論的考察） 後に、液滴表面のつりあいを考える際、静電気力が加わった場合についても考えてみ た［図１１］。 もし静電気力がはたらいて液滴を支え る力の一部を担うとすると、反作用の力として液滴表面へよけいな力が加わり、液面の へこみは静電気力がはたらいていない場合よりも大きくなると考えられる。よって、こ のへこみの違いを実測することによって、検証できる。しかし、これを検証することは 大変難しく、実現していない。

【写真４】 ［図１１］

５．仮説１の検証実験（空気層説の検証）

（方法） 注射器を使って実験容器内の気圧を低くする。 一つの気圧につき３０回ずつ液滴の寿命を測定する。 気圧はボイルの法則より求めた。 ＜寿命の測り方＞ レーザー光を、液滴ができる場所を通るようにして照射しておき、反対側に置いた受 光機で受光する。すると、水面に液滴ができている間はレーザー光が遮られる。このレ ーザー光が遮られた時間を、受光器につながった二元象ストレージシンクロスコープで 測定することで、液滴が水面に存在した時間、すなわち寿命を測る。 そのとき時間測定用に調節した正弦波を同時に流す［図１１］。 液滴は水面に落下した後一度水の表面を押しながら沈み込み、もう一 度浮き上がるので波形は【写真５】のようになる。 （装置）［図１２］［図１３］ （工夫した点） 気圧を変化させると、わずかに箱がふくらんだりへこんだりするので、中に入れ る水の量を調節して、ビュレットの先端と水面の高さが一定になるようにした。 オシロスコープに１０Hzの波を同時に流して、時間の測定に使った。（１周期で0.1秒） 実験をしていると水位が上がっていくので、時々下部のガラス管から水を抜いて 水位を一定にした。

[図１２] 【写真５】 ［図１３］

６．仮説１の検証実験の結果の考察−参考書から学んだこと−

＜液滴表面のつりあい＞ （１）液滴が球の場合 液滴半径をr〔ｍ〕、水の表面張力をσ〔N/m〕、 液滴内の圧力をP〔N／m²〕、 外側の空気の圧力をP'〔N/²〕とおく。 このとき液滴は、PとP'の他に、表面張力の合力も内側に向かってはたらく ［図１４］。この表面張力による圧力と、P-P'がつり合う。 ここで、液滴の半径がΔrだけ増加し、 その結果、体積がΔV、表面積がΔSだけ増加したとすると、 熱力学第一法則より、 （P-P'）・ΔV=σΔS�%%%（１） V＝、 S= 　より、ΔV/Δr=4πr² �%%%（２） ΔS/Δr=8πr�%%%（３） １，２，３より P-P'＝２σ/r�%%%（４）

［図１４］

（２）液滴が扁平化した場合 　 　液滴は、時間がたつと球形から、徐々に扁平化していく。このとき、液滴の重心から 水面までの高さがh〔m〕からh'〔m〕、表面積がS〔m² 〕からS'〔m² 〕になった とすると［図１５］、 体積の増分：ΔV=0、 表面積の増分：ΔS＝S'-S>0、 高さの増分：Δh=h'-h<0、 重心の位置は、hからh'に変わるから、 σΔS+mgΔh=0・・・５ 　したがって、 ΔS=-mgΔh/σとなり ΔS>0で表面積が増大する。 ４式からP'が大きいほど同じ大きさのｒでも大きな内圧Ｐを支えることがわかり、検 証実験１の結果を説明できる。また扁平化によって液滴下部の曲率半径rが大きくなる が、この場合でも寿命が長くなることを説明できる。 ＜液滴と水面のつりあい＞ ［図１６］

［図１５］ ［図１６］

７．空気層の厚さの測定

（方法） 透明なプラスチック容器の側面に、外側から方眼紙をはりつけ、その容器内に石鹸水 （水道水１００ｍｌに対し界面活性剤２２％の台所用洗剤ファミリーフレッシュを１ ｍｌ加えたもの）を入れる。 この状態で上から水滴を滴下し、最も液滴がもぐり込みや すい高さを見つけ出す。その高さから、ビュレットで水道水一滴ずつをゆっくりと滴下 し、液滴をもぐり込ませる。 その様子をビデオカメラで撮影する。そしてビデオ画像を 見て、液滴の重心が１コマで（１秒あたり６０コマのものを用いた） 何mm下降または上昇したかを記録し、液滴にはたらく浮力と加速 度を求める。また、事前に液滴の体積と質量は求めておく。 （装置）【写真６】［図１７］

【写真６】 ［図１７］

（工夫した点）
　水滴を石鹸水に滴下させると、空気の泡と共にもぐり込んでしまうことがある。これ は液滴がもぐり込んだ際の液滴の激しい変形運動で空気がまきこまれることが原因で はないかと考えられたため、石鹸水の表面を直径５mm程度の泡でおおい、そこに水滴 をおとすことで液滴がもぐり込む際の衝撃をやわらげて、余分な空気の泡がつくことを 防いだ。

＜計算方法＞
　石鹸水の抵抗力：R（ここでは液滴の速度は極めて小さいためRを一定と考える）
液滴にまとわりつく空気の体積：V
液滴の体積：V0
液滴にまとわりつく空気層による浮力：F
液滴の水による浮力：F0
液滴が下向きに動くときの加速度：α
液滴が上向きに動くときの加速度：β
石鹸水の密度：ρ （0.993g/cm³）、 水の密度：ρ0 （1.000g/cm³）
空気層の厚さ：d、液滴の質量：m、重力加速度：g
で上向きを正とすると、


F=ρVg�%%%６、 F0=ρV0g�%%%（７）、ｍ＝ �%%%（８）
V＝×ｄ�ゥ�ぢ（９）、 V0＝ �%%%（１０）

運動方程式より、液滴が下向きに動く場合：ｍα=R＋F＋F0-mg　�ゥ�ぢ（１１）
　　　　　　　　液滴が上向きに動く場合：ｍβ=-R＋F＋F0-mg　�ゥ�ぢ（１２）
（１１）＋（１２）より、ｍ（α＋β）=2（F＋F0-mg）

（６）、（７）、（８）より、
(α+β) =2(ρV g+ρV0g -ρ0V0g)

V=
（９）、（１０）より、
ρ≒ρ0と近似して、
　∴
　

この公式に、実験の解析結果を代入すると
α=1.048× 〔m/s²〕、 β=1.172×〔m/s²〕
r=2.5×〔m〕、g=9.8〔m/s²〕より、
d≒4.9× 〔m〕

補足

1. 加速度の求め方：ビデオカメラから各コマごとに液滴の位置をしらべ、ytグラフをつくる。
   そして表計算ソフトから近似関数を求め、その式から加速度を求める。
2. 液滴半径の求め方：方眼紙を背景にして液滴を発生させ、ビデオカメラの撮影により計測した。
3. 石鹸液の密度の求め方：水道水１００ｍｌに１ｍｌの台所用洗剤を加え、
   その質量を電子上皿てんびんを用いて測り、その石鹸水を２５ｍｌの注射器を用いて正確に体積 を調べた。

８．仮説１の修正（補足）

我々はHが水面に出ていると考えたが、それは現象観察より、液滴をつくる気体を変 えた場合、寿命が石鹸水＞エタノール＞メタノールの順で長くなることをふまえて、分 子中のHの数が多いほど、寿命が延びるので、Oδ−よりHδ＋の方が気体に影響を与える と考えたからである。【図１８】

［図１８］

９．仮説２の検証実験

（方法・装置）
一度装置内を水で一杯にしておいて、上方のガラス管から気体を入れて、下方のガラ ス管から水を抜くという方法で特定の気体を実験装置に入れる。

気体は、空気、酸素、窒素、水素、ブタン、アルゴンの６種類を用いる。

装置は“仮説１の検証実験（空気圧力説の検証実験）”と同じ。

（工夫した点）
実験をしていくと水位が上がってくるので、２０滴落とすごとに上の管から気体を入 れつつ、下の管から水をぬいた。このようにして、空気が決して混ざらないようにした。

他は、“仮説１の検証実験（空気圧力説の検証実験）”と同じ。

１０．高速度ビデオカメラについて

「水〜一瞬のアクロバット〜」という記事を科学朝日（1992年7月〜）から見つけ た。掲載されていた写真が朝倉俊博氏の撮影によるものと知り、電話で尋ねたところ、 協和界面科学株式会社の提供による高速度ビデオカメラで撮影したものと知った。そこ で協和界面科学株式会社にお願いしたところ、ご好意で機材を貸していただくことがで きた。

１１．２時間以上の極長寿命をもつ液滴をつくる（世界で初めての試み！？）

（方法）
なめらかな板の上に一定の速さで水を流して跳水面をつくり、マイクロカプセルまた は非常に細かい石粒（麦飯石）を入れた液滴を跳水面上にそれぞれ滴下し、高速度カメ ラを用いて観察する。なお、マイクロカプセルは松本油脂製薬株式会社から提供して頂 いた製品を、麦飯石は株式会社Ｆｌｅｘが販売している製品を使用した。 （装置）［図１９］

（工夫した点）
水道水をいったん水槽に送り込み、そこからチューブでピペットに水を送り込むこと により、ピペットから出てくる水量と速度を一定にした。サイフォンの原理より、水槽 の水位を変化させることで水量と速度の調節が可能となり、射流域の広さを変化させる ことができた。よってその跳水面に存在できる液滴の最大の大きさを知ることができ、 液滴の位置を固定することができた【写真７】。

［図１９］

【写真７】

１２．液滴下部の凹凸を判別するための反射光の観察

（方法）
ビュレットから落とした液滴をメニスカスの上をすべらせ、レーザーの位置まで動く ようにして、そのときにレーザー光がどのように反射するかで液滴下部の凹凸を高速度 カメラの画像から判別する。

（装置）
プラスチック容器、発泡スチロール、ハーフミラー、ビュレット、半導体レーザーを 用いる【写真８】［図２０］。

［図２０］

【写真８】

（工夫した点）
メニスカスを利用して液滴が動くようにした。

１３．流水上の実験―流水と寿命の関係−

（方法）
パイプ側面のゴム栓を１つはずし、パイプの上部から、ホースで水を入れて、パイプ の水量をゴム栓をはずした穴の高さで一定にする。はずすゴム栓の位置を変えることで パイプ底部の水圧を変化させ、アルミ製コの字型水路を流れる水の速度を変えることが できる。それぞれの水の速度においてコの字型水路上の決まった位置で水滴を落とした ものを、ビデオカメラで撮影し、その映像をビデオカメラのコマ数から解析し、その水 の速度での液滴の寿命とした。

また、パイプに近い地点から目印となるもの（我々の実験ではにおい玉）をコの字型 水路におとし、その様子をビデオで撮影する。ビデオの映像を見て、決まった地点での ０．１秒あたりのそれぞれのにおい玉の移動距離から、におい玉の速度を流水の速度と して求めた。

（装置）
直径８．３ｃｍ、高さ１００ｃｍのパイプの一方をプラスチック板でふさぎ、底をつ くる。パイプの側面に底部から１０ｃｍおきと５ｃｍ地点に直径１．３ｃｍの穴をあけ、 その穴をゴム栓でふさぐ。また、パイプの底側部を２．５ｃm×１．２ｃｍに切り取り、 そこに同サイズで長さ９２ｃｍのアルミ製コの字型水路を取り付ける【写真９】［図２１］。

【写真９】（左）　　［図２１］（上）

（工夫した点）
パイプとコの字型水路を取り付けた部分に濾過面を接着し、水流の乱れをおさえた。 また、スポンジを細長く切って、切り込みを入れたものをコの字型水路の側面にはさみ こんでとりつけ、水面におこる波の反射を防いだ。コの字型水路の横には１００ｃｍの ものさしをおいて、パイプからの距離がわかるようにした。

１４．水面波上の実験−振動数と寿命の関係−

（方法）
振動数の違う水面波を発生させた水面に、液滴を点滴装置から間隔、高度、水深を一 定に保つようにして滴下する。各振動数ごとに数十回ずつ液滴をつくる。それをビデオ カメラで撮影し、コマ数から寿命を計測する。そしてコマ数のデータからｔ分布で振動 数と寿命の関係を調べる。
（装置）【写真１０】［図２２］

【写真１０】　　　　［図２２］（右）

（工夫した点）
間隔、高度、水深を一定にするため、

• 水深は、プラスチック容器の高さが低いものを用い、満水の状態を保った。
• 間隔は点滴装置のしぼりで調整した。このことにより滴下間隔の変化も少なくなる。
• 容器内の増加した水量を、ティッシュペーパーを伝わらせて排出。これによって容器内の水深、水量を常に一定とした。
• ブラシ状のナイロンを側面につけることにより、反射波を防いだ。
• バイブレーターからの振動が正確に伝わっているか、液面を振動させている棒の振動数を高速度カメラを利用して確かめた。３０Hzのとき、一回の振動に0.0333秒かかるので、振動数は30.03003となり、ほぼ正確に伝わっているといえる。

補足：液滴表面の波の速さの計算

我々は、水面波と液滴の寿命には関係があることを明らかにするために、液滴表面の 波の速さをを仮説３の検証実験（２）の結果を利用して求めた。ただし、液滴滴表面の 波は弦のような一次元の波ではなく、二次元の波であり、取り扱いが難しそうであるの で、一次元の波をモデルとして考えた。

表面張力が重力よりも復元力として優勢な場合、水面波（表面張力）の速さを
Ｃ〔m/s〕とすると、（「流体力学３０講」１４４ページより）

よって、波動の実験において、最も寿命が長い３５Hzのとき、
水面波の速さは２５、 ２〔ｃｍ／s〕であると計算される。
同様にして７０Hzのときは３１．７〔ｃｍ／s〕である。

　この速さは流水実験で寿命が最も長くなるときの速さ（約１１cm／s）よりも十分に 大きく、表面の波が空気を押し込む役割を果たすのではないかと考えられる。

補足：液滴消滅の過程について

ビデオカメラの映像から、液滴が消滅するしくみを推察できる。水面上で液滴は扁平 化し、一体化しようとして液滴から水面へ水が押し込まれる。その反作用の力から液滴 は縦長になり、水面と分離する。これが繰り返されるため、多段階に液滴が縮小するよ うに見えるのではないだろうか。

１５.　感想

１６．謝辞

研究内容に的確な助言をしてくださり、研究体制を支えて頂いた先生方、実験に必要 な試料や器具を快く提供して頂いた松本油脂製薬株式会社、協和界面科学株式会社、三 浦電機有限会社、水に関する著書を参考にさせて頂いた上に、忙しい合間をぬって質問 に答えて下さった上平恒先生、写真家の朝倉俊博氏、我々の研究を陰で支えてくださっ た警備員の方々など、協力していただいたすべての方々に深く感謝します。

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